NO
目次
NOのタイミング
別にNOが言えないわけではない。
どうしますかと問われ
きちんと意見を求められたら
勇気を出して厳しいことも言える方です。
だけど、強引な誘いや相手のペースに巻き込まれてしまっていると
NOを言うタイミングを完全に逃してしまう
ということが今までに何度もありました。
……ありますよね?
がたいのいいおっさん
昨日、郵便物を取りに出た時に
たまたますれ違った男性が
以前、仕事のおつきあいがあった方に
とても良く似ていたので
思い出した出来事です。
その仕事上のお付き合いがあった方は
家から500mくらいのご近所に住んでおられました。
イメージとしてよく伝わるように
おっさんと呼ぶことにします。
おっさんは
たしか、私よりふた回りくらい年上で
元、自衛隊に所属しておられた方で
背は高くはないですが
とてもがっちりとした体型の
一見、かなり怖いタイプのおっさんです。
性格は、非常に几帳面で頑固者で
たいてい夕方以降は
へべれけに酔っぱらっていて
近隣で親交のある人はあまりいませんでした。
私はおっさんのそんな見た目に
ビビることなく接していたこともあり
おっさんに気に入られ
おっさんは、たびたび魚介類や野菜などの
おすそ分けを持ってきてくれていました。
おっさんの依頼
ある日のこと。
おっさんから朝早く電話がかかってきました。
豆をたくさんもらったから
おすそ分けしてくれるとのこと。
ただし
自分は出かけていて今日は届けられないから
おっさんちに取りに行ってほしいと。
おっさんは
おっさんのお母様と二人で暮らしていました。
正直なところ
めんどくせぇ~豆なんか別にいらんし。
と思いましたが
わざわざ私のことを気にかけて
声をかけてくださるんだから
喜んで頂戴しに伺わなくちゃね。
いただくこともお付き合いの一つ。
と思い直しました。
おっさんのお母様
おっさんちの玄関のピンポーンを押して
インターホン越しに名前を名乗りました。
おっさんのお母様は
足が不自由なので
「入ってきて」
とインターホン越しに
小さな声でおっしゃいました。
おっさんから
お母様の話はちょいちょい聞いていましたが
お目にかかるのは
その日が初めてでした。
玄関を開けて中に入ると
お母様がちょうど奥の部屋から出ていらして
曲がっている腰を可能な限り伸ばすかのようにして
ご自分の視界いっぱいに
私をご覧になられました。
交わらないお互いの世界
ごくごく普通に
いつもお世話になっていますぅ的な
挨拶をしばらく交わした後
おっさんのお母様は
くっしゃくしゃの笑顔で
「あんな気難しい男とお付き合いしてくれて……
いやぁ、こんな綺麗な方が……」
と2、3回リピートしました。
ん?お付き合い???
ま、仕事上のだけど、お付き合いっちゃ
お付き合いか。
「いらっしゃってくれたのに
こんな汚い格好でごめんなさい。
えぇ~。あんなとっつきにくい男に。まぁ……
これからもよろしくお願いしますね」
と手を合わせたり、手で顔面を覆ったりしながら
立て続けにおっしゃっていました……が
どう見ても
めちゃくちゃ嬉々としておられました。
今にも「上がってお茶でも……」と
言われそうな空気に満ち満ちました。
ヤバい。ヤバいぞ。
被害妄想かもしれんけど
いや……
このばあさん。
私のことをおっさんの彼女と思ってる。
早く撤退しなければ
ばあさんか私かのどちらかに
確実に嘘をつく羽目になる。
おっさんの確信犯か?!
老い先短い母親を
安心させるための親孝行のつもりとか
っていうのは
べたな芝居にありがちなストーリーだけど。
もしくは
ばあさんの甚だしい勘違いか……
いずれにせよ
まぎれもない現実が目の前にある。
おそらく
それぞれの果てしない妄想が
めくるめく展開されていたと思います。
渾身の策で
急いでいますモードを演出し
もらうモンをさっさと受け取り
はいでもいいえでもない
あぁ.,.s&△%;$~&#◇!z”=+・・・と
言葉にならない言葉を笑顔で放ちながら
ひたすらラップのリズムを
刻むかのように頭を下げて
急いで撤退したように思います。
いただいた豆は
数時間後に
友人におすそ分けと言って
全て差し上げました……
言えないNO
言わないNO
日常の中にひそむトラップ!
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